河原にしゃがみ込む少年がカメラアイに鋭く反応を返すショットを巻頭に置くこの燃焼度の高い作品集には、ところどころ、少年の瞳や頬、柔らかい腕、指先、匂いたつ体温や息する感触がよぎる。主題や被写体とするというよりも、相棒とする、分身となる—少年の日に寄り添い、ともに目の前の事象へ感受性を開いていこうとする。根本にはそういう態度の選択があって、このような重層的で伸びやかな光景群が生まれでてきたのではないか。きっぱりと作者は宣言する、「どこまでも具体的な事物に満ちた世界において、何かが存在するということ、そしてそれを成り立たせているものに触れる力を、写真は持っている」。「そこは、私たちの心が泳ぐことのできる自由な空間である」。古代ギリシャの原語で「小さい星」を意味したという表題の記号が、この本を眺め耽る私にはだんだん、ふわりと宙を舞い新しい季節の到来を知らせるしろばんば(雪虫と)オーヴァーラップしてくるのであった。
日本写真年鑑2018 発行 日本写真協会