清水あすか 「我が妻籠み。」

冬にリンゴを食べる、夏でも

リンゴを食べること、が、隠れている何よりいけないこと

の、あらわであったら。想像して、一つずつの

自分がしてきた、思い出し、どうしよう。強張り、こと、とはどんな

成り立ちであったか、特権であったのか。

こと、とも数えないような

昼間誕生して、夕方には

絶滅する、知られないままの種

も、見ていただけ。

 

アスファルトや

電線が、すでにあった風景をずっと、きれいと思い

夕方の

青い、色との相まりに見とれては

育つ、割れたところから伸びる背骨の

求められる、先にある、迷いを、息づかい

息苦しさを、知る。声でなくとも

許される余白に、染み出す安心を

欲しいと。解をほどく

計算式の、なにを言わなくても

よい時間、表わされる

数式が、風景をつかむ、指触りを。

こう在りたい

絵描くのと、実際の

幾通りもの、有り様。足りない、を束にして

生きられる身体、歴史が

入りきらないで、ひび割れる、顔。

中身。どうしても、おもしろい、いくつもの

おもしろい。変わっていく、おもしろい

一つも

笑うところは、ない。もう

笑わなくてもよい。前歯の間を

見せなくてもよい。奥歯にはなにも

隠れていない。看板の

字は、距離のとおりで、やたら情報が投げつけられることは

ない。みぞおち抜ける

深い息を。かけがえない、と言わなくてもいい

自分のたわいなさへの

安心を。歯が作る、かじるリンゴの

奥行きを。

 

足りないのは、祈る膝だ。額に食い込む

組む手の痕だ、なんて、そんな

ものは、とっくに、生活の所作に溶けて

祈るとは、手のひと払い。呪得る一本の、指なぞり、いつも

気づかないときに、成すことが、あとへ

驚くほどの、心もちに、育っていく。

こめかみ滴から

たまって、行と行の間

満ちていく。一滴足指の先

つけて水たまり、作る波や

鍋のふち、味見が残るおたまの端で、充分夜を

作ることはできる。

 

声をかけたならもっと

背骨は育つ先を、知るんでしょう。かけられたかったことばを

得ないことで、身体はどうしても育つでしょう。

アスファルト、ひび割れる。そこへも夕方は

入り込んでいく。電線で改める、風景の座標

鳥でもたわむ、座標軸。気づかれないし

知られない。のが、特権。リンゴ食べた、なんて

言わないよ、言わない。見るだけ。言わないことで

育ててる。余白を、声でないところで、歯を

育ててゆく。この歯はもはや、姿無い種の

息をしていたというかすかな看板で

ある。かすかな。だから

息を

しておくれ。するよ。息を

する。そうやって、調整をする。夕方に

立つための、満ちる行と行の間を

またぐための。青色祈るあざは、なんという

心もちに、育っている。この身体はまったく

何百万年の夜の束だという。その

迷うの息づかい、おもしろく

息せわく、苦しい、でも背骨は

一本しか取れない。